(1)はじめに
一昨年末、中国武漢で発生したとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中に広がり、未だその影響はおさまっていません。この原稿執筆の5月末時点での世界の累計感染者数は1億6970万人、累計死亡者数は352 万人の状況です。
我国では、人口あたりの感染者数・死亡者数は、東アジアの国々の中では最悪であると言われ、その一方でG7の国々の中で比較すれば、その数は少なく抑えられているとはいうものの、経済ダメージを大きく受けています。政府・自治体による感染抑制対策の効果が強く望まれています。
そんな状況の中、実用化に何年もかかると言われていたワクチンが、バイオテクノロジーの発達によって1年足らずで実用化されました。そして欧米では昨年末から今年の初頭にかけてワクチン接種がスタートしはじめ、我国でも遅ればせながらですが本格的なワクチン接種が始まっています。迅速な接種が進み、今の状況が一刻も早く終息することを願うばかりです。
本稿では、難しい話は専門書に委ねるとして、最近メディア等で飛び交っている、ウイルスや免疫、ワクチンに関して、知識の整理をしておきたいと思います。(以下略)
(2)ウイルスと免疫
ウイルスは、細菌と呼ばれる病源体とは異なり、自分自身で増殖する能力が無く、生きた細胞の中でしか増えることができません。ウイルスは、我々の細胞の中に入り込んでそのたんぱく質製造工場(リボソーム等:図1参照)を乗っ取り、自分の遺伝子のコピーを増やしていきます。乗っ取られた細胞は、その内側でウイルスが大量に生成され、最後は破壊されてしまいます。この細胞の破壊の連鎖が次々と起こり、私達の身体に深刻なダメージを与えます。
ご存知のように、このような病原体が身体に侵入してくれば、それを阻止する免疫という仕組みが我々には備わっています。
この免疫システムには大きく分けて「自然免疫」と「獲得免疫」があります。「自然免疫」は病原体が侵入してくると迅速に攻撃するもので反応が非常に速い。しかしながら不特定に病原体を大雑把に攻撃するため、この免疫だけで病原体を制圧できないことが多い。一方「獲得免疫」には、一度侵入したウイルスの情報を記憶し、再び侵入された時に一早く対処できるよう学習することができるという特徴があります。(以下略)